摂食障害
家族による家族学習会について

心理教育・家族教室ネットワーク第18回研究集会 名古屋大会で分科会を開催しました
テーマ 摂食障害の家族心理教育〜家族による家族学習会を中心に〜


出演
 コーディネーター:伊藤順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
   鈴木 高男(摂食障害家族の会ポコ・ア・ポコ)


情報提供 伊藤順一郎
対談(伊藤先生&鈴木&S) 
・ポコ・ア・ポコ家族会による家族学習会デモンストレーション
抄録集掲載文>>

「情報提供」伊藤順一郎
家族心理教育は、原則的には専門家が家族の皆様に情報を伝え一緒に考えましょうというスタンスにたって、家族の方の日々の患者さんと呼ばれる人との付き合いの応援をするというのが、家族心理教育というものの基本の形だったと思うのですが、家族の方がだんだん力をつけてこられて、文化としても専門家とそれ以外の人々というような分け隔てをしなくてもいいのではないか、病に対する対処であるとか、病の体験を抱えながら生きるということについて、何か意義のあることを語られるのは専門家とは限らないのではないかというような動き、考え方がだんだん浸透してきて、むしろ体験をしているものの強みとして「家族の方が家族を支える」という対応は結構意義があるのではないか。そういう考え方になって「家族による家族学習会」というのが統合失調症ばかりでなく、摂食障害、引きこもりなどいろんな分野で動き始めているように思います。研究的に見てどっちが優れていますか?みたいなことについて、きちんとデータを出している研究は、実はあまりないのですが、ただ明らかに意味のあるということは日本だけではなく、アメリカであるとか、あるいは香港を中心として台湾とかアジアの国々で認められてきています。

家族による家族学習会というのは、強みがいくつもあると思うのですが、主な強みを考えると2つは確実に言えると思います。1つは学習会を運営する側のご家族なので、ご家族としての痛みをご自身もよくわかる、体験しているゆえに共感のレベルが深い。いらっしゃった方を受け止める質がとても深くなる。これは専門家がトレーニングをしてもわからない、そういう部分が確実にあります。

もう1つは、コスト的に絶対にたぶん安い。専門家の方を診療報酬でやろうかとか、専門家の治療技法として行うわけではないので、お互いがお互いを助けましょうよというモチベーションでやっているので。回復に向かって、人が汗をかき人が智恵を絞るという所は同じなんですけど。逆に言えば専門家みたいな方に頼らなくたって僕たちはできるというところはあるかなと思います。

ただ、誰でもどこでもできるかというとここはちょっと違うだろうと。それは何かというと家族による家族学習会をするという企画を立てた時に、いかにそこに安心と安全の場を作ってお互いが何を言ってもいいような雰囲気を作って、その中でいろんな意見が出てくるような、自分達はその意見の中で自分にとって合うなと思うものを取り入れて、そういう仕組みを作るためには、ちょっとは作法を練習しましょうというか、その気になって皆さんをお迎えするためのトレーニングみたいなものは、必要かと思います。

おもてなしの心をずっとみなさんの持っている文化の中で、もっているものを実際にグル―プという集団の場で言葉のやりとりの中で発揮できる。そういうことでは、人が集まって自分たちの困りごといついて考える集団、自らの体験した人たちが作るということは、必ずしも精神保健だけに限ることではないかもしれない。震災で家を失った人たちが仮設住宅の前で集会をやっていることとかも同じようなところもありますし、がんの患者さんたちが回復していく人たちとなどいろんな分野で、おそらく病気による特定とか関係なく障害を持っている人が自分の元気を取り戻していくというきっかけとして、ここと繋がっていくといいなと。これを摂食障害という分野で集まってきている皆さんがいらっしゃって、自分達の活動の一端をお伝えしつつ、どういうことが生まれるといい場ができるのかなというあたりを一緒に考えていけたらなと思う。

対談

伊藤
家族による家族教室は心理教育の1つとして考えていただいていいと思うんですけど。鈴木さんもSさんも初めは普通の家族、普通のと言ったら変ですけど、普通に仕事をされていてたまたまお子さんが摂食障害になって、そのように同じ体験をしたものの立場でいろんな人と出会えるということ自体が僕はとても貴重だなと思いますし、鈴木さんやSさんみたいな人がとても珍しいとかいうとそうでも実はなく、いろんなところに似たような人がきっといて、そういう人たちが元気をもらって自分達がパワーアップすることでいろんなご家族と繋がって、またそこでピアの支援、ピアというのは同じような体験をした者同士の繋がりという意味ですけど、支援の場を広げていくとうことができるんじゃないかなと思っています。まず最初は千葉で始められたんですよね、そこらへんのいきさつを

鈴木
私も摂食障害の娘を抱えた親で、かれこれ18年くらい前に伊藤先生が国府台で摂食障害の家族勉強会を開いていてその4期生で約1年間参加させていただきました。勉強会が終わったあとこのまま皆といると何となく居心地がいいので、これを持続出来たらいいよねということで家族会を作ろうかというのが発端でした。いろいろな人が集まる中でいろいろなことが発信していけて親御さんたちがどんどん明るくなってきているのが、あきらかに目に見えてきて続けてきて良かったなと思っています。

伊藤
Sさんはいかがですか

S 
ドクターショッピングをして国府台病院に繋がってそこで初めてポコ・ア・ポコの話を聞いて、無理矢理女房に連れて行かれました。病院にかかってるんだから治るだろうと思っていたが、孤立感とか感じていました。周りに話せるわけではないし話してもたぶん理解はしてもらえない。家族会に行ったら同じような人がいっぱいいて、そこが居心地がよく安全を感じました。最初は話を聞いていても言葉では理解できても納得できない部分があったりしたが、具体的な症状の話とかどのような対応をしたのかとかいう話を聞いて、当事者の性格もバラバラですのでそのままあてはまるかどうかはわかりませんが、ヒントになることもあったり、具体的はアドバイスをいただいたりしながらやってきて、それが結果的に自分たちが変わっていくことで当事者も少しずつ変わっていくなという実感をしているので、ずっと続けてきています

伊藤
補足すると、1番最初は摂食障害の家族心理教育というのを僕たちが国府台でやっていたところに鈴木さんが参加していただいたのが最初ですね。家族心理教育というのは、スタッフの方がおもてなしをする側でご家族をお招きしてという形で、それをその時は8回ワンクールくらいでやってました。みなさんご存知のように心理教育はグループの型が決まっています。最初は良かったことを言いましょうといってみなさんの最近のちょっとした気持ちがホッとしたこととかを言うウォーミングアップ。そのあとで今の困り事について出していただいて。今日はどの話題についてみんなと考えましょうかと言って話題を絞ります。

その話題についてみんなでいろいろ考える、考え方としては話題を出した方が今日来てよかったなと思えるようなお土産をお渡しできるように、その方がどんなことを今後皆さんからアイデアをもらいたいのかなというのを筆記していって困りごとを聞いて、いろんなことについてアイデアをもらえたら、話題を出された方に利益になると思いますかと聞いてそれに絞りながら話をしていく。今ここにある私がこれから先少し元気になるためにはどんなことがあるといいかというところに皆の意見をだす、そういう流れになっていく。家族教室のセッションが終わってからご自身たちで始めた時にそのエッセンスを取り入れながらはじめられた。それを千葉でおやりになり名古屋でもグループができて。もう1つバージョンアップしたと思うのは、家族による家族学習会というそういう呼び方とまた少し勉強なさって、ご自分たちなりの型を作っていったんじゃないかなと思います。

鈴木
自分達は医療者ではないので、本人と家族の関わりに特化してやっています。親子関係ってこんなだよねとか、それには1番に親子の会話ができないことのほうが問題だよねとかいうよな、むしろ家族と本人と親とのコミュニケーションとか兄弟同士のコミュニケーションのあり方とかという部分に重きをおいています。身体的な部分などは医療者に相談してと、医療者とつなげる役割も大きい部分を占めているかなと思います。

伊藤
家族同士の集まりなので、そこで話し合われる話題の中で家族間同士のお父さんとかお母さんとか、兄弟とか本人とか人と人との対人関係がこんなふうに変わっていけたらいいいかなというところに、1つ焦点を置こうとしたというのが1つと、家族会の中ですべてをやろうとするのではなくて、お医者さんがいたほうがいいことに関しては、お医者さんをうまく使おうとかそういうところを工夫していくみたいな感じですかね。Sさんは家族会に参加して意識の変化はありましたが?


コミュニケーションを取るには相手のことがわからないと一方的なコミュニケーションでは成立しないし、そのために相手をよく観察しなければいけない。でも渦中にあると相手のことどころか、自分のことも混乱してわからないことも学習会で相談したり話したりすることで、どういう対応が可能でしょうかとかそういう話をしていただくことで、客観的は立場から家族と当事者とそいうのを見つめなおせる、作り直せる機会が得られたことがとても有効だと思ています。

伊藤
家族学習会という場が安心できるような場で、自分があまり感情的にならないで自分を振り返る。そういうことを周りの家族の方同志のコミュニケーションが助けてくれている。自分が皆さんから得た情報を場合によっては受け入れてそのことによって自分が変わっていく、ということが出来る場。そういうような感じでしょうかね。そうだとすればそれは、そういう場を作る能力というのはきっと人として僕らはみんな持っているわけで、そういう能力を発揮できるように場を作るということが意義があるのかなと。そういう場を作る能力をみんなで育んでいくという。そこには専門家も家族も当事者もそれぞれの立場でいろいろ工夫していければいいのかなと感じました。


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